太陽電池の電力変換効率向上は、大きく2つの理由からその重要性が認識されています。長期的視野で捉えると、電力変換効率が将来的に電力コストを削減する最も効果的な方法であるからです。そして、短期的には、屋根、ファサード、車両、さらにはドローンなど、設置面積が限られる物体における太陽光発電促進につながるからです。
しかしながら、既存の太陽電池は根本的に原材料が達成可能な発電変換率に影響しており、現在最も普及しているのはシリコン太陽電池の一方で、その電力変換率は理論上約29%に留まっています。現時点で同技術が一般的にもたらす変換効率は27%ほどと、将来的に飛躍的な効率向上への道はまだ開かれていません。
この限界を超えるべく繰り広げられるイノベーション競争において、研究者たちは「タンデム」 太陽電池を形成にあたり、シリコンに相補的太陽電池の追加を実施しました。太陽の高エネルギー可視光線を上部セルに吸収させ、低エネルギー赤外線はタンデム後部のシリコンセルに吸収させる方法です。ヌーシャテル州に立地するCSEMとEPFL PV-labの研究者たちは、材料と製造技術を駆使して、溶液から高品質なペロブスカイト層を平坦化シリコン表面に堆積させ、1㎠の太陽電池における電力変換率30.93%を達成しました。さらに、シリコン表面の凹凸に対応可能な蒸気・溶液ハイブリッド処理新技術を施すことで、電力変換効率31.25%(1㎠あたり)の太陽電池を開発し、2種類のタンデム‐シリコン‐ペロブスカイト太陽電池で電力変換効率の向上に成功しました。
2つの世界記録を同時に更新 - 太陽光電池の将来性に新しい展望
今回のEPFLとCSEMの共同研究の結果は、米国のNational Renewable Energy Laboratory (NREL)が独自に認定したもので、平面における電力変換効率とテクスチャー装置における電力変換効率という2つの世界記録を更新しています。後者のテクスチャー型は、より高い電流を提供し、現在の産業用シリコン太陽電池の構造にも適合しています。
「電力発電効率30%の大台は、他の原料を用いた電池、すなわちIII-V族系半導体太陽電池では既に達成されていた数値でした。しかし、この太陽光電池に用いられる材料や製造工程は、シリコン太陽電池の約1,000倍の費用がかかり、エネルギー移行を推進するにはあまりにも高額でした。今回の結果で、低コストの材料と製造工程でも電力変換率30%の大きな壁が克服可能であることを初めて証明したものであり、太陽光電池の将来に向けた新たな展望を見出すものとなるでしょう」と、EPFL Photovoltaics LaboratoryとCSEM Sustainable Energy Centerを統括するChristophe Ballif氏はコメントしています。